「団地」と聞くと、均質で灰色がかったコンクリートの箱が整然と並ぶ風景を思い浮かべる人は多いでしょう。高度経済成長期に大量供給されたイメージが強く、「どれも同じ」「没個性的」というレッテルがつきまとうかもしれません。しかし、実際の団地を丹念に見ていくと、そこには時代ごとに異なる住宅観、そして建築家たちが試みた、さまざまなデザインの挑戦が息づいています。団地は決して画一的な集合体ではない――。むしろ、技術革新と生活文化の変化が刻まれた“建築のアーカイブ”として読み解くことができるのです。

戦後の住宅不足を背景に、団地建設の初期には「いかに多く、早く、合理的につくるか」が最優先されました。そのため外観はシンプルで、住棟のタイプも限られていました。しかし、1950年代後半から60年代に入ると、単なる供給量の確保にとどまらず、「どうすれば快適な住環境をつくれるか」という住宅公団(現UR)や自治体の問題意識が芽生え、さまざまな意匠の実験が行われるようになったのです。そこから生まれたのが、いま見てもユニークで、“団地建築の個性派”ともいえる住棟たち。中でも象徴的なのが「スターハウス」。平面が星形に広がるこの建物は、三方向に住戸が伸び、各住戸が角部屋のような採光と通風を得られるという合理性を追求したもの。大量供給を前提としながらも、居住性と意匠性を両立させるための大胆な発想といえます。外観もどこか未来的で、当時の人々に「新しい生活」の象徴として映ったかもしれません。東京の赤羽台団地や千葉県の常盤台団地など有名な「スターハウス」も存在。効率性の中にも、少しでも豊かな住まいを実現しようとする建築家たちの姿勢が読み取れます。

また、地形や自然環境に応じて計画された「テラスハウス風の段々住棟」も団地ならではの試みのひとつ。斜面地を活かしながら住棟をずらし、丘陵の風景に溶け込みつつ、各住戸にテラスや専用庭のような外部空間を確保する。ここには“都市にいながら庭のある暮らしを”という当時の憧れも投影されています。日本の風土へのまなざしが意匠に反映された好例と言えるでしょう。団地だけど戸建てのような、メゾネットタイプの住戸がある団地もあります。室内に階段があり、天井が高い開放感。団地にいながら「立体的な暮らし」を可能にした革新的な試みで、現在も子育て世帯に人気だとか。住空間そのものを“暮らしの器”として実験していたことがわかります。

外観に少し視点をずらしてみるどうでしょうか。デザインや意匠の「挑戦」が垣間見える団地も多数あります。外廊下を大胆に曲線で処理して柔らかいファサードをつくったものや、階段室のガラスブロックを意匠として強調した住棟、柱や梁を表現的に見せる“構造美”を伴う団地など、地域や時代によって多様なデザインが生まれています。これらの意匠は「単に奇をてらった」のではなく、その裏には住宅不足から脱した社会が“質の向上”を求め始めたという背景があったのかもしれません。

 

だから…団地がおもしろい!

振り返ってみれば、団地は社会の変化に真っ先に反応する建築でした。量から質へ、家族構成の変化、衛生やプライバシーへの意識の高まり、そして都市の拡大。そうした流れの中で、団地は新しい生活スタイルを先取りするように、さまざまな意匠的挑戦の場となったのです。私たちが「画一的」と感じるのは、おそらく外観の一部だけを遠くから見ているから。近づいてみれば、そこには時代の息遣いと、建築家たちの試行錯誤が確かに残されています。

団地のデザインを読み解くことで、その時代に生きた人々の価値観や夢を知れる。「同じように見える建物」に込められた多様な工夫に目を向ければ、団地はそれぞれまったく違う物語を語り始めます。次に団地を訪れるとき、階段室の形、外壁の素材、住棟配置の工夫など、意匠の一つひとつに注目してみてください。そこには、私たちがまだ知らない“豊かな団地の表情”、そして「日本の建築」の奥深さがあるのです。

written by ENJOYWORKS TIMES/Tomoko Sato